世界文化遺産 『源氏物語』は、「世界の記憶」への登録も進められている様子。たしかに、そこに物語られる人間の魂と思索の軌跡は、豊饒な文化性を内在させながら、常に時代を超えて、時代に即しながら歩むほかは無い人間の、生きることの意味を発信し続けた証しに他なりません。音読、現代語訳を施した後、深く掘り下げながら解釈、作品世界の意義を考察していきます。

「絵合」巻は、源氏が復権した「澪標（みをつくし）」巻の政治状況を受けて展開します。冷泉帝13歳、弘徽殿女御14歳、斎宮女御22歳、年齢差から弘徽殿女御に傾きがちな帝の寵愛ですが、絵を好む帝の心は、絵の巧みな斎宮女御に移り、それに負けじと権中納言は対抗策をとり、源氏もさらに政治色を見せながら対応、かくして「絵合」巻では、当代の文学・文化状況が政治状況と不可分に語られていきます。
　「松風」巻の舞台は、嵯峨野は大堰川のほとり。二条の東院に明石の君を迎える源氏のもくろみは、明石の君の身の程のためらいについえますが、彼女は悲しくも父明石入道を残して、母尼君伝領の大堰川の邸に、姫君と母尼君と共に上京してきます。哀切極まる明石の君の姿を掘り下げていきます。